再訪した思い出。
大学時代、とある後輩がスパイスやコーヒー豆に詳しかったのです。
ルーを使わずスパイスやトマトだけで煮たてたものを、「カレー」といってふるまってくれました。
驚きでした。そして絶品。
小麦粉はカレーにはいらないのです。
それを教えてくれました。
また、サイフォンでコーヒーを挽くことを教えてくれました。
コーヒー豆を挽き、アルコールランプに火をつけ、コポコポ煮立てたのでした。
そのうち、仲間を集めて、学園祭に喫茶店を出店しました。
ペーパードリップのコーヒーより10円高いサイフォンコーヒーをメニューに載せました。
サイフォンは大忙しで、後悔しました。もっと価格を高くすればよかった。
そうして、それから私の部屋にはサイフォンがあったのです。
結婚するまでは。
また、ある冬の日、彼はチャイをふるまってくれました。
私の知らない文化。
香ばしく、ピリッと微かに辛く、芯からほっとする飲み物…
牛乳の苦手な私にも、いくらでも飲めました。
やがて、私は先に卒業し、彼とは没交渉になってしまいました。
その後、街でいくらチャイを頼んでも、あの味と香りがしてこないのです。
あれは、心づくしの、本気のレシピだったのだ。
わかったときはもう遅い。
妻は出来合いのチャイを、おいしい、おいしいと言って飲みます。
私は、心の中で、首を振ります。
チャイはそんな味じゃないんだよ…と心の中で、つぶやくのでした。
妻には言えない、思い出なのです。
しかし時代は。
再び彼に私を引き合わせました。
OBとして訪れた大学の演奏会で。
彼は客席に、いたのです。
ただ…大人になった二人は、もうお互いに手作りのカレーや飲み物をふるまうこともないのでした。