小説「仮題・ヒギンズ教授の憂鬱」第一章-3
(俺は、気まぐれで、高校の後輩朝倉美智に、彼女が通う大学のサークルのS先輩をゲットさせるためレッスン中。)
より。
「いちばん落ち着く装いは…セーラー服ですっ」
それは、違う。
ミチはもしデートに誘われても着られるコーデもろくに持っていないというので、一緒に服を買いに行くことにした。
「おしゃれな先輩とか心当たりはないのか?」
「ディープに相談になったら、S先輩狙いだってばれちゃいます…」
とりあえず、きれいな服じゃなくて、男にアピールするためなら俺でいいだろう。
うちの大学の周りや、自分のマンションの周りは避けなければならない。
自分の彼女にはばれたくない。ただでさえケンカばかりしているのだ。
せっかく旧都にいるのに、結局大都に行くのであった。
初夏の日差しの中、大都で待ち合わせる。
手を振るミチは、確かにまったくあか抜けない田舎娘であった。
「お前は見た目がお子様だから、あざとい演出が必要なんだ」
どこかに緩さを作らなくてはいけない。
「これなんかど…」
「肩出し!? 無理無理無理ーっ!」
みなまで言わせず拒否してきた。
「じゃあ、ほら。レースのカーディガンで押さえるのでいいだろ?」
「うー…恥ずかしい、これはハードル高いよぉ」
そういえば、ユ●クロのパーカー姿しか見たことがなかった。
これじゃ買ってやっても箪笥の肥やし、だ。
「じゃあ首を出してみるか」
首元を大きく開けた、全体に緩いサマーニット。
店員さんに髪も簡単に結い上げてもらい、首筋に隙をつくるのだ。
袖も大きくて、一見ポンチョみたいだ。手首ばかりか、すぐ肘まで袖が落ちてくる。
足のラインは、7分丈の白いレギンスで輝かせる。
「恥ずかしい…けどちょっと慣れてきた」
先は長い。どっと疲れた…
次はリップを選んだ。
普段使いの、抑え目のナチュラルなグロスを効かせたサーモンピンクと、真っ赤な一本。
それは本気の日の飛び道具なのだ。
ところでな。もしデートに誘われたら。
任せるふりをして、主導権を握らなくてはならない。
本当に任せてはいけない。「あなたが選んで?」じゃなくて、「どっちがいい?」ってきくんだ。
尊重する振りをして、選んだことにさせてやるんだ。
「コーディネートで誘っても、ルージュの色で誘っても。
大事なことは。お前は3回に1回は、逃げなきゃいけない。気まぐれにはぐらかしていいんだ」
「…いままで親や先生に逆らったこともないのに…」
「それは噓だな!」
「てへっ☆」
そして、いずれミチはS先輩の部屋に行くという大イベントを迎えなければならない。
(ヒギンズ教授の部屋は別枠である)
男の部屋への入室の作法の実習をした。
ドアを開けて、少し入って、じっと待っていなさい。
入れと言われてからおずおずと、入る。そしてきょろきょろと見回す。興味津々を上品に表現だ。
何度も繰り返し練習させた。
隣の部屋のやつが帰ってきてたら変に思っただろう。