「それがあなたの仕事なんですか!」を読み説く
仕事として人は何をするか。
ドラマにはこんなセリフが飛び交い、場面の緊張感、もしくは息苦しさを盛り上げる。
「それが仕事なんですか!」
「人のしりぬぐいをして。人を陥れて。あなたの正義は何なんですか!」
人の営みは正義だけとは限らない。
生物であれば、「よいこと」も「わるいこと」もするだろう。
ところでそれは、なんなのか―?
人間は倫理を生み、よいとわるいを決めた。
よいとわるいとは、なにか?
ひとりひとり、よいとわるいは、違う。
どうやって分けているのか。
それはつまり、「気持ちいい」という感覚だろう。
それは必ずしも即時的なものではなく、個々の想像力に裏打ちされる。
つまり、「今の行為」が気持ちいいかではなく、想像できる「先の条件」を組み合わせて決めているということだ。
そして、正義は仕事を規定する。
つまり。
仕事の内容は、個々の想像力によって決められているということだ。
そこで、マズローの欲求階層説を復習してみよう。
試験向けの詳しい解説は別にいくらでもサイトがあるので省く。
欲求の階層はそのまま想像力の届く先だ。
自己効力感の及ぶ先だ。
明日の食(第1段階)、職(第2段階)が怖いものは、そして今の職場(第3段階)を失うことが怖いものは、社会への害など気にも留めないだろう。
彼らが「責任感」を及ぼして行動できるのはせいぜい第4段階までであろう。ただし、それはしばしば1~3に引きずられ、後退するのだ。
そして、それは「仕事」の中身にも反映される。
バーナードは「権威の源泉は発令者ではなく受諾者の側にある」と喝破した。権威があるから人が命令に従うのではない。人が従うから権威が生まれるのだ。真に権威が認められるリーダーの下では、人は抜け穴など探さず、反抗するものも逃げ出すものも現れず、自発的にその意を実践するであろう。
「汚れ仕事」と称するものがあるのは、それを「いやいややっている」「自分がやらされたらたまらない」からであろう。
権威に従ってやる「誇り仕事」ではないからであろう。
しかし、それを命じ、あるいは実践する人がいる限り、それも人の営みなのである。
ゴルゴ13は請負暗殺が「仕事」なのである。彼にとっては、殺人は芸術であり、誇りのある仕事なのであろうか。それともそれなりに心の疼きを覚える仕事なのであろうか。その寡黙な姿からはうかがい知れない。
マズローは晩年にはさらに自己超越の6段階を提唱している。
想像力の先には個体も社会も超えた宇宙倫理があったのだ。
社会を広く見、よりよく保ちたい、もしくは改革したいと思うものは、第1~第5の価値観を投げうって、仕事の在り方を変えるだろう。
そこでは、「汚れ仕事」も「きれいな仕事」も統合されるに違いない。
よいもわるいもない。しなければならないからやるのである。
社会の維持に必要だからやるのである。
この地球に生物が住めなくなるまで。