TETSUYAの航海

テツガク好きな医療人です。時々イラスト練習中。

余命1か月は残念ながら信用できるという話

先週、肺がんの社長さん、Aさんが亡くなりました。

若干ロス気味です。

肺がんとのおつきあい

3学会合同呼吸療法認定士という資格を保有していることもあり、事業所では、がんや呼吸器系の利用者さんが私に多めに振られるのです。

父を肺がんで亡くした私には、この上ない精神浄化の機会となっております。

いえ、どんな利用者さんにも全力ですけど、ちょっと思い入れが。

 

心理的適応のための防衛機制には、合理化、投射、同一視、抑圧、補償、代償、昇華、反動形成があり…

つまりそういうことです。

私はAさんに父を投影してみているのでした。

 

父の告知から、短い介護を経て、死とその後に向き合ってきました。

その経験から実感したことは、「食事がとれなくなったら転がるように死に向かう」ということです。

 

基礎代謝

基礎代謝とは、生命維持するために最低限必要なエネルギー量です。

筋肉・脳・神経・血球その他の組織・器官が必要とする栄養の総量です。

普段意識してないのですが、内臓も筋肉です。

寝たきりでも、エネルギーは消費されます。

投入されたエネルギーが基礎代謝を下回れば、単純に体重が下がるとは表現しません。

筋肉が落ちるのです。骨もスカスカになるのです。

結果、基礎代謝はさらに下がります。

 

まず四肢の力が落ちます。

休ませてて細くなるのと意味合いがまた違って、内臓を守るために手足の筋肉を削っているのです。

内臓が、手足の筋を食べ始めるのです。

薄くなった筋肉は、力を入れすぎたり、体重をかけたりすると、痛みを感じます。

 

手足の次に、体幹が弱くなると、座っているのがしんどくなって、寝かせてくれと要求するようになります。

それを超えると…内臓の筋が減り始めます。

 

壁が薄くなり、動きが止まったり、破れたり、出血したりします。

免疫機能も落ち、感染・発熱・炎症が多発します。

水がたまりやすくなり、手足がむくみます。

褥瘡(床ずれ)が発生しやすくなり、また、治りにくいです。

 

これらの過程の中で、引き返せない地点(ポイント・オブ・ノー・リターン)があります。

はっきりとはわかりませんが、医師が余命1か月を宣告したら、治ることは難しいということです(個人の感想です)。

 

Aさんの経過と死

ついこの間まで歩行練習に執念を燃やし、自宅に平行棒をレンタルし、足関節装具を作成したAさん。

階段を介助で昇降していました。

しかし、膝折れが始まり、膝装具も作成しましたが、体幹伸展が保てず、介助も一苦労。

気丈な奥さんでも限界です。

もう屋内移動は大方車いすです。

 

恐れていたことがおこりました。

食事量が落ちてきたのです。

「朝食は食べるんだけど、昼食が取れなくて…薬も飲まないといけないので無理に少しバナナを食べてますけど」

抗がん剤を久しぶりにやったので、きつかったのか、まあそのうち食べだすだろうと思います」

「やせたわーちょうどええわ、はは」

 

脂肪のたくわえがあったころとは違うのです。

やせてしまっているのは、脂肪を使い果たし、筋肉が減り始めたのです。

 

現場の時間感覚

これらの経過について、上司には都度報告していました。

 

リハビリの処方は行政指導で効力が3か月と決まっているので、3か月以内にリハビリ科診察が必要になります。

A社長についてもその予定が組まれたのですが、もしかしたら「入院」が近々に迫っているという予感がしました。

私は訪問日を早めてもらえないかと漏らしましたところ、周囲は「大丈夫ですよ、そんな心配しなくても」という反応でした。

 

しかし、訪問リハビリでは、運動などはもはやほとんどできず、胸郭のストレッチと呼気介助による、排痰介助による呼吸困難感の改善と酸素飽和度の改善くらいしかできなくなりました。

私の胸騒ぎは強まるばかりでした。

間に合うのか。

間に合わなければ「入院」中に訪問リハ処方の効力が切れ、再開時にリハ医師訪問が必要になります。

それだけのことといえばそうなのですが…

「間に合わない」という響きはとても不吉に思えました。

 

実現しなかった前倒し診察日程のまさにその日に。

Aさんは呼吸困難を訴え、救急車で運ばれたのです。

診断は「誤嚥性肺炎」。

飲み込みの筋力が落ちていたのです。

これは全身性に筋力低下が起きていたことを意味します。

 

Aさんは呼吸停止の危機がありながらも、いったんは回復し、在宅復帰に意欲を燃やしていました。病室から仕事の指示を出してさえいたと聞きました。

しかし。

リハビリ往診の予定日であった、その日。

病院で、Aさんは眠るように息を引き取ったのです。

 

まとめ

今回は「基礎代謝」と栄養摂取の解説をいたしました。

お役に立てれば幸いです。

 

もう一つ、防衛機制もご紹介しました。

 

また…言葉で状況を説明しても、そしてそれがどんなにヒントに満ちた的確な情報であっても、現場最前線の熟練の感覚はそれをはるかに上回って正確だということをお伝えしました。

これを日付に反映させることは難しい。

人の命を平均値に乗せることの難しさを感じます。